制度を知る
再生医療のルールと、医療者が知っておきたい基礎
「再生医療」という言葉を目にする機会が増えています。けれども、それがどんな分野で、日本ではどのようなルールのもとで行われているのかは、医療や介護の現場で働く人にも意外と知られていません。ここでは、基本的な言葉の意味と、国の仕組みを整理します。

再生医療という分野
再生医療は、細胞や組織を用いて、失われたり損なわれたりしたからだの組織や機能に働きかけようとする医学の分野です。研究の分野としては「再生医学」とも呼ばれ、医療の現場で行われる行為としては「再生医療」と呼ばれます。
この分野の研究は、細胞の性質を調べる基礎研究から、実際に人を対象とする臨床研究まで幅広い段階にわたっています。まだ研究の途中にある技術も多く、何ができて何がまだわかっていないのかを、冷静に見分ける目が求められる分野でもあります。
幹細胞とiPS細胞
再生医療の話題で必ず登場するのが「幹細胞」です。幹細胞とは、分裂して自分と同じ細胞をつくる能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に変わっていく能力(分化能)をあわせもつ細胞のことをいいます。人のからだの中にも、さまざまな種類の幹細胞が存在しています。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、皮膚などのからだの細胞にいくつかの遺伝子を導入することで、非常に多くの種類の細胞に分化できる能力と、増殖を繰り返してもその能力を保つ自己複製能をもたせた細胞です。からだのさまざまな細胞に変わりうる性質から、研究の分野で広く用いられています。受精卵からつくられるES細胞(胚性幹細胞)と並んで、多能性幹細胞の代表として知られています。
なぜ法律によるルールがあるのか
再生医療は新しい医療技術であり、細胞を採取し、加工し、人のからだに用いるという性質上、安全性の確保と倫理的な配慮がとりわけ重要になります。厚生労働省の再生・細胞医療・遺伝子治療についてのページでは、再生医療は新しい医療技術であるため、安全性を確保しつつ、迅速に提供する体制が求められると説明されています。
同じページによれば、平成26年11月には、医薬品や医療機器に関する法律の改正とあわせて、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」が施行されました。この法律では、再生医療等の提供に関する手続きや、細胞培養加工の外部委託に関するルールなどが定められています。また、令和7年5月31日には改正法が施行され、細胞加工物を用いない遺伝子治療なども新たに法の対象に加わったことが示されています。
再生医療等安全性確保法のしくみ
ウィキペディア日本語版の「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」の項目では、この法律は、日本における再生医療等に用いられる技術の安全性の確保と、生命倫理への配慮に関する法律であると説明されています。
同じ項目によれば、この法律では、再生医療等を第一種、第二種、第三種の区分に分けたうえで、それぞれについて再生医療等を提供する計画(提供計画)をあらかじめ厚生労働大臣に提出しなければならないと定めています。区分ごとに求められる手続きは異なり、計画は、専門家からなる委員会の意見を聴いたうえで提出されます。
委員会による審査
計画を審査する委員会について、同じ項目では、再生医療等の技術や法律の専門家などの有識者からなる合議制の委員会で、一定の手続きにより厚生労働大臣の認定を受けたもの(認定再生医療等委員会)であると説明されています。さらに、そのうち特に高度な審査能力と第三者性をもつものは、特定認定再生医療等委員会と位置づけられています。
つまり、再生医療等は、医療機関が独自の判断だけで始められるものではなく、第三者の専門家による審査と、国への届け出という手続きを経てはじめて提供できる仕組みになっているのです。
手続きをしない提供は法律違反
厚生労働省のページには、再生医療等を提供しようとする医療機関や、特定細胞加工物を製造しようとする事業者に向けた重要なお知らせが掲載されています。そこでは、再生医療等の提供や、そこで使う特定細胞加工物などの製造を行う場合には事前に手続きが必要であること、そして手続きをせずに提供または製造した場合は法律違反となり、罰則が適用されることが明記されています。
さらに同じページでは、再生医療等に関する情報や懸念、不安な事例などを受け付ける「再生医療等情報提供・通報窓口」が設けられていることも案内されています。再生医療等の安全性と信頼性を高めるため、国が情報提供への協力を呼びかけているのです。
学会という専門家の集まり
再生医療の分野には、研究者や医療者が集まる学術団体もあります。日本再生医療学会のウェブサイトでは、学会からのお知らせや声明・ガイドラインなどの情報が公開されています。専門家の団体がどのような見解を示しているかを知ることも、この分野を正しく理解する手がかりになります。
医療・介護で働く人にとっての意味
再生医療は、一部の専門家だけの話題ではありません。病院で働く医師や看護師、薬剤師、臨床研究にかかわる治験コーディネーターなどはもちろん、介護の現場で働く人も、利用者さんや家族から「再生医療」という言葉を耳にする機会があるかもしれません。
そのときに知っておきたいのは、「再生医療」として提供される医療が、ここで紹介したような法律の手続きのもとに置かれている、ということです。提供する医療機関は、事前の手続きを経ていなければなりません。個別の医療についての判断は、主治医や専門家、公的な機関に委ねるべきものですが、制度の基本を知っていれば、疑問を感じたときにどこで確かめればよいかがわかります。
正確な情報を確かめたいときは、厚生労働省の再生・細胞医療・遺伝子治療についてのページが出発点になります。臨床研究や新しい医療技術をめぐる国のルールについては、治験にかかわる仕事もあわせて読んでみてください。