仕事を知る|医師・歯科
医師の非常勤・スポット勤務とは
医師の世界では、常勤の勤務先をもちながら、ほかの医療機関でも定期的に、あるいは単発で診療にあたる働き方が珍しくありません。その仕組みと、引き受ける前に考えておきたいことをまとめます。

「非常勤」という言葉の意味
ウィキペディア日本語版の「非常勤」の項目では、非常勤(パートタイム)とは勤務形態に関する用語で、労働契約における労働時間がフルタイムで働く人よりも短い被用者を指す、と説明されています。つまり、ある勤務先との関係で「毎日決まった時間すべてを働くわけではない」働き方をまとめて呼ぶ言葉です。
医師の場合、この言葉はいくつかの形を含みます。毎週決まった曜日に特定の病院で外来を担当する定期的な非常勤、夜間や休日の当直だけを引き受ける勤務、健康診断や予防接種の時期に合わせた短期の勤務、そして一日や半日といった単位で単発に入る、いわゆるスポット勤務などです。呼び方は医療機関によって違いますが、いずれも「常勤ではない立場で診療に加わる」点が共通しています。
なぜ医師は複数の職場をもつのか
医師が常勤の職場とは別の医療機関でも働く理由は、人によってさまざまです。地域の医療機関にとっては、特定の診療科の医師を常勤で確保することが難しい場合、非常勤の医師に来てもらうことで外来や当直を維持できるという事情があります。医師の側から見ると、ふだんとは違う環境で経験を広げられる、専門性を生かせる場が増える、といった面があります。
歴史的には、大学病院の医局が関連病院へ医師を送り出す仕組みも、こうした働き方と深く関係してきました。ウィキペディア日本語版の「医局」の項目によれば、医局は構成員の関連病院などへの紹介や派遣を行ってきた組織であり、医局と所属医師のあいだに雇用関係がないにもかかわらず、その関与は「派遣」や「人事」と表現されてきたといいます。大学に籍を置きながら外部の病院で診療する働き方は、こうした背景の中で広がってきたものです。
また、子育てや介護、研究や大学院での学びなど、生活の事情に合わせて常勤を離れ、非常勤の勤務を組み合わせて働く医師もいます。非常勤という働き方は、医師のキャリアを途切れさせずに続けるための選択肢のひとつにもなっています。
引き受ける前に確かめたいこと
非常勤やスポットの勤務は、短い時間で初めての環境に入ることが多いため、事前の確認がとても大切です。一般的に、次のような点を勤務先とよく話し合っておくと安心です。
- 担当する業務の範囲:外来のみか、病棟の対応や急変時の対応も含むのか。検査や処置をどこまで担うのか。
- 指示系統と連絡体制:困ったときに相談できる常勤医や責任者は誰か。夜間はどのような体制になっているか。
- 記録と引き継ぎ:カルテの書き方や引き継ぎのルール、使う情報システムの操作方法。
- 勤務時間の扱い:休憩や時間外の扱い、ほかの勤務先との兼ね合い。
特に最後の点は、医師の働き方改革とも関係します。複数の勤務先で働く場合、それぞれの勤務時間を合わせたときに無理がないかを考える必要があります。制度の考え方は医師の働き方改革のページで紹介しています。
責任と保険の考え方
どのような勤務形態であっても、医師が診療を行えば、その判断には専門職としての責任がともないます。非常勤だから責任が軽くなるわけではありません。そのため、万が一の医療事故に備える賠償責任保険について、自分がどのように守られているのかを知っておくことが大切です。
常勤先で加入している保険や、勤務先の医療機関が加入している保険が、ほかの勤務先での診療にも及ぶのかどうかは、契約の内容によって異なります。個別の判断は、勤務先や加入先に直接確認するのが基本です。賠償責任保険という仕組みそのものについては、医療職と賠償責任保険の基礎で一般的な考え方をまとめています。
初めての職場で気をつけたいこと
単発や短期の勤務では、その日に初めて会うスタッフと一緒に診療を進めることになります。看護師や事務スタッフ、薬剤師など、その職場のことをよく知っている人たちの力を借りることが、安全な診療への近道です。最初に簡単なあいさつをして、自分がどこまでを担当するのかを共有しておくだけでも、連携はずっと円滑になります。
また、薬の採用状況や検査の手順、紹介状の書式などは医療機関ごとに違います。ふだんの職場の感覚で進めてしまうと、思わぬ行き違いが生じることがあります。わからないことはその場で確認し、判断に迷う場面では常勤の医師や責任者に相談する、という基本を大切にしましょう。短い勤務であっても、患者さんにとってはその日の担当医であることに変わりはありません。
自分に合った働き方を考える
非常勤やスポットの勤務は、うまく組み合わせれば経験の幅を広げ、生活の事情とも折り合いをつけやすい働き方です。一方で、職場ごとにルールや人間関係が異なり、常勤の職場ほど深くチームに入り込めないという面もあります。どのような働き方が自分に合っているのかは、専門分野や将来の目標、家庭の状況によって変わります。医師という職業の全体像は医師という仕事で、ライフイベントとの両立については女性医師のキャリアと働き方で取り上げています。